第一章「Down the Rabbit-Hole」その1(主人公:水上由岐)
「なんかこれ……やばい方向になっている気がするぞ」
水上由岐は、空――マンションの屋上から降ってきたぬいぐるみを拾う。
ぬいぐるみを落とした少女、高島ざくろは言う。
それは「空に帰る日」を探す為の行為なのだと。
由岐はその日から、幼なじみの若槻姉妹、高島ざくろと共に「空の少女」と「世界少女」とが出会う、「その場所」を探すことになる。
司の話によると、この世界には「世界そのもの少女」がいて「空の少女」に会う。
夏の大三角形が見える場所で夏に一度だけ、地上の世界少女と空の天空少女が出会う。
「街の噂」「都市伝説」というたぐいの、この街に伝わる有名な伝承らしい。
その少女は一人だけで、此処にいてはいけない少女。
世界そのものの少女は、空のもとに還らなければならない……
世界少女と空の少女が出会える場所を探している。
世界である少女が望む事はすべて叶う。
世界そのものである少女が望むのであれば、世界はすべてその様に…
「ご迷惑なのは百も承知なのですが、どうか空に還るその日まで、私をここにおいてはいただけませんか……」
ざくろはうさぎ事件の後、由岐宅に「粉骨砕身ご奉仕メイド」として住み着いてしまう。
おとなりに住まう若槻姉妹もここぞとばかりに「幼なじみキャラ」でざくろに張り合って由岐宅に泊まりこむことになり、夏休みを前に騒がしい生活が始まる。
「メイドが上か、幼馴染が上か……勝負です!」
由岐を含めた若槻姉妹の楽しいパジャマ&ハーレムパーティ。
由岐様と呼ぶ「高島世界初前を洗うメイドざくろ」に張り合って由岐の取り合いをしたり。
4人で学校サボっての世界少女探したり。
あげくの果てには「王様ゲーム」で由岐争奪バトルで日々は過ぎ……
本当は、最後にどうしても会いたい人がいたから無理をして残っていた――
実は今学期で転校するのだ――と遊園地デートのあと、ざくろは由岐に告白する。
今学期が終わる20日までしか、ざくろはこの街にいられない。
世界少女の伝承は好きな人に出会えるおまじないで由岐に会えて満足だった――と。
その翌日、都合よく街が大停電となり星空の下で4人は仲良く天体観測をする。
天文部の部室で悪ふざけした後、ざくろは特急の前で別れを告げる。
落ち着いたら連絡してね、という由岐と若槻姉妹にざくろは言う。
「はい……あそこは遠いですけどね……」
「遠いって……別に同じ空の下なんだからさ……どんな遠いって言ったってさ」
「それ言ったら、世界中のどこだってそうじゃないですか……」
「……知ってましたか? つながってるんですよ?」
「この電車、あっちの街まで」
「だから、また会いにこれる……あなたが私を忘れたら……また……」
司と鏡の「由岐との思い出」は確かにあったことなのだが、微妙に形を変えている。
若槻姉妹が女性同士なのに妙に由岐を意識し過ぎるわけも、後、わかる。
「そう……幼馴染みという好きになれる立場になりたいという気持ち……
そして妹として肉親になりたいっていう気持ち……」
「そういうアンビバレンスな気持ちが双子って形になったんじゃないかな?」
――と司が語るのもまたひとつの暗喩である。
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